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2019/02/25 ロサンゼルス・フィルハーモニック 公演 ジョン・アダムス:ピアノ協奏曲 曲目解説を公開します

来日が迫るドゥダメル指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニック 100周年記念ツアー。
3月20日公演の演奏曲目、ジョン・アダムスの新作初演曲の曲目解説を公開します。
公演鑑賞の一助にお役立てください。
公演の詳細は、こちら

Must the Devil Have All the Good Tunes?
John Adams
ジョン・アダムズ

作曲:2019年
演奏時間:約28分
編成:piccolo, 2 flutes (2nd = piccolo), 2 oboes, English horn, 2 clarinets (2nd = clarinet in A), bass clarinet, 2 bassoons, contrabassoon, 4 horns, 2 trumpets, 2 trombones, percussion (Almglocken, bass drum, snare drum), honky tonk piano (detuned upright), bass guitar, strings, & solo piano

ロサンゼルス・フィルハーモニックによる初の演奏:2019年3月7日(世界初演)
ロサンゼルス・フィルハーモニック委嘱作品(後援:レノーア・S.&バーナード・A.・グリーンバーグ基金)

《Must the Devil Have All the Good Tunes?(悪魔は全ての名曲を手にしなければならないのか?)》は、《エロス・ピアノ》(1989)と《センチュリー・ロールズ》(1996)につづく、ジョン・アダムズの3作目のピアノ協奏曲である。アダムズ本人によれば、この曲名は「雑誌『ザ・ニューヨーカー』のかなり昔のバックナンバーに載っていた、[社会活動家]ドロシー・ディに関する記事に由来します。私は以前に、“ハレルヤ・ジャンクション”という地名を偶然に知り、この名を冠した曲を書くべきだと確信したことがありました。
あのときと同じように、記事中の“悪魔は全ての名曲を手にしなければならないのか?”というフレーズを目にした途端、私は、“音楽になる瞬間をひたすら待っている秀逸な曲名だ”と、心の中でつぶやいたのです。このフレーズが私に暗示した“死の舞踏”は、フランツ・リスト的な様式だけでなく、ファンキーでアメリカ的な様式をも取り入れた“死の舞踏”でした。」アダムズは、このフレーズの起源をたどれば、マルティン・ルターと様々な18・19世紀の神学者たちに行き着くと指摘してもいる。

この協奏曲は、単一楽章の切れ目のない音楽であるが、連結された3つのセクションは、伝統的な3楽章形式の協奏曲の「緩・急・緩」の速度設定にならっており、終始、独奏ピアノ・パートが活躍する。はじめにピアニストとオーケストラは、ゴスペル風に、低音域で定型を反復する(楽譜には「粗野に、ファンキーに」と記されている)。そのグルーヴは安定しているが、8分の9拍子が、4分の4拍子と8分の1拍子に分割されているため、最後の句読点のような余分な1拍が、調子が狂い、よろめいている印象を与える。
主題の無窮動的な変奏(楽譜には「落ち着かない様子で、ロボットのように」との指示があり、ヘンリー・マンシーニの『ピーター・ガン』のテーマ音楽がこだまする)を伴いながら、全体の響きが密になり、膨らみ、活性化されていくなか、音程が狂ったアップライト・ピアノ(ホンキートンク・ピアノ)が、独奏ピアノに不気味に音を重ねる。調性の中心音から分岐しつつ、次第に放埓かつ半音階的になっていく独奏ピアノの書法は、鋭いアクセントをつけて和音を吹き出す金管楽器群につきまとわれる。そのとき、ジグザグに動く半音階的な旋律線は、もう一つの悪魔の音楽を喚起する——M.C.エッシャーの騙し絵のような階段を永遠に昇りつづけていく、《ピアノ練習曲「悪魔の階段」》(ジェルジュ・リゲティ)だ。
ピアノとオーケストラが対話を重ね、一連の問いを和音で投げかけた後にやって来る第2セクションでは、細やかな装飾がほどこされた独奏ピアノ・パートの上で、弦楽器群の響きが浮遊する。ピアノ・パートは、跳ねるような旋律を休みなく探っていくが、その深い静穏がつづくのは束の間である(アダムズは第2セクションの作曲において、とりわけユジャ・ワンの抒情的な演奏から着想を得たと述べている)。
最終セクションへの切り替わりは、ほとんど感知されえない。第2セクションの緩やかな脈動が、第3セクションの8分の12拍子で揺れるリズム(譜面には「強迫観念/スウィング」と記されている)へと滑らかに移行するからだ。第3セクションを特徴づける超絶技巧と遊び心は、すでにアダムズの他の楽曲のフィナーレでお馴染みの要素である。はしゃぎ回るシンコペーション、甲高く歌う木管楽器群、オフビート(弱拍)を強調する金管楽器群、大股で軽やかに進む低音群、総動員の打楽器群、そして鍵盤中を駆けめぐるピアニストが、ジャズのインタープレイさながらに触発し合う。オーケストラが、オクターヴのニ音(レ)による短く神秘的な中断を3回もたらしたあと、エネルギッシュで輝かしい独奏ピアノが、この協奏曲をにぎやかな結末へと突き動かす。

Sarah Cahill